久保建英、アンス・ファティ。バルサ カンテラ育ちの傑物達である。久保建英はFC東京から名門レアルマドリードに移籍した後、17歳ながら日本代表のA代表に選ばた。クラブをレンタルで転々としたのちに、レアル・ソシエダで日本人最高となる8ゴール6アシストを記録した。(2023/5/14現在)
一方のアンス・ファティはメッシ去りし後の名門バルセロナで10番を受け継いだ男。バルサでのデビューは16歳304日。CLでは17歳40日でCL史上最年少でゴールを決めた。その後、左膝内側半月板損傷という大けがに見舞われたが今シーズンは7ゴール3アシストと20歳とは思えない数字をバルセロナで残している。(2023/5/14現在)
この2人をバルサの下部組織時代にスカウトディレクターとして見出したといわれているのが現・FC東京監督のアルベル・プッチ・オルトネダである。
この記事ではアルベル監督のことを解析し、今のJリーグに蔓延るある”誤解”を解いていく。
アルベル監督はどのような人物か。
Q、アルベル監督はご自身のことを、ロマンティストかリアリストか、監督のタイプとしてはどちらだと思っていますか?
A、突然、どうしたんですか(笑)。私は自分をリアリスタだと思っていますよ。
※上:インタビュアー 黒太文字:アルベル
引用:アルベル監督インタビュー リアリスタの改革 | F.C.TOKYO FANZONE | FC東京 (fctokyo.co.jp)
彼のことを一言で表すなら、生粋のリアリスト。彼の考えはインタビューを通してうかがうことができる。
Q、どういった理由から、そう思うんですか?
A、ロマンティスタは、夢を見るだけで終わってしまうものです。しかし私は、自分の理想とするサッカーをチームに落とし込むために、常に現実を見ています。近年、インターネットが普及し、テクノロジーの発達によってサッカーの分析が極端に進みましたが、一方で、サッカーが本来持つ要素が失われつつある気がします。例えば、インターネット上にはサッカーの戦術分析があふれています。試合に勝つと戦術の勝利、試合に負けると戦術が悪いという意見がまかり通っているところがありますが、サッカーとはそんなに単純なものではありません。チームは血の通った人間の集団です。それぞれが長所と短所を持ち、ときにピッチ外で問題を抱えていることもあります。そんな生身の人間を、監督はうまくまとめなければならない。だから、私は理想を持ちながらも、常に現実と向き合っています。
サッカーはロマンを語ってはいけない。常に現実に向き合い、最適な一手を打たねばならない。そこに対してはフロント、選手、監督だって同じことである。しかし、FC東京が一度も手にしたことのないタイトル。これに関しては違うようだ。
Q、アルベル監督の大風呂敷を広げない、優勝を目標に掲げないのは重々承知の上ですが、松木玖生選手が例えば3冠を口にしたり、新しくやってきた選手たちが東京で優勝したいという言葉が出てきている。その言葉を聞いたときに、監督として、指導者として、また父としてどういう気持ちですか。
A、彼らがタイトルを獲りたいという希望を持っていなかったとしたら、家に帰って寝てろと言いたい(笑)。そういう希望を持っていなかったらいけない。ただ、私はリアリスタとして、適切な形で、監督として発言しなければいけない立場にいます。昨日も言いましたが、過大な期待を抱かせるような過大な目標設定というのは、やはり大きなフラストレーションにつながってしまうと、私は考えています。だからこそ、私は監督として、次の試合の勝利をめざす、それこそが目標であると認識していますし、より長いスパンで今シーズンを考えた場合には、昨シーズンよりも、よりよりプレーを毎試合表現することが目標になります。サッカーの世界はとても簡単です。試合に負け続ければ、このクラブを去らなければいけない、それがこのサッカー界の常です。私は監督として、現実をみて、そしてリアリスタとしての発言をしなければいけない立場にあります。
引用:2023シーズン チーム始動 監督・選手インタビュー | F.C.TOKYO FANZONE | FC東京 (fctokyo.co.jp)
Jリーグ優勝。これはすべてのFC東京サポーターの念願の夢であり、1番手に入れたい物。それは監督にとっても同じようだ。言葉にしないだけ。選手には強く優勝を思い描くことを要求するのは、口外していないアルベル監督も同じ考えであるということだろう。
東京という”首都”に誇りを持つ
この記事を書いた著者自身。アルベル監督は長くFC東京に身を置いてほしいと考えている人物である。その理由は”首都・東京”に対してのリスペクトである。
Jリーグが始まって今年で30年首都東京の中心部23区はどのクラブチームのものでもない。この事実は海外のサッカーを見ても少し特別なことである。基本的に、サッカーのチームは首都が強くなる傾向にある。
プレミアリーグではロンドン アーセナルやトッテナム、チェルシー。ラ・リーガではレアルマドリード。セリエAではASローマ。ブンデスは少し特殊だがウニオン・ベルリンは強い。リーグ・アンではパリ・サンジェルマン。他のリーグに目線を向けると、スコティッシュ・プレミアリーグでは中心地グラスゴーでセルティックとレンジャーズは永遠のライバルである。トルコではなんと首都イスタンブールにフェネルバフチェ、ガラタサライ、ベシクタシュというビックチームが三つ巴で君臨している。
しかし、日本の首都東京はどうだろうか。東京の優勝は一度もないのである。(東京ヴェルディの優勝は旧川崎ヴェルディの時のみである。)
著者自身の考えでは、サッカーと比較される野球。シーズン中、ほぼ毎日神宮球場と東京ドームで野球が行われており、サラリーマンや家族層すべての人が気軽に試合を見に行けるようになっているが、サッカーではどうだろうか。国立競技場の開催はJリーグで年数試合。そんなので、工業スポーツとしての人気が上がるのだろうか。答えは否である。
しかし、アルベル監督はそういう理由を知りながらも日本のサッカーをそしてFC東京を最大限リスペクトしてくれているのではないだろうか。
岩本氏
今シーズンの東京に期待しています。2年目ですし、なにより選手がやり方を分かっていることが大きい。先ほど森重選手と話した時、「すごく面白いし、やりやすいから、今シーズン良いのではないか」と言っていましたよ。
アルベル監督
東京という都市は世界でも5本の指に入る規模の大きな都市です。そのような偉大な都市を背負っている東京が、首都の名前を背負って、相手に怯えて守備を固めてカウンターアタックでプレーするということは名前に見合っているでしょうか。カウンターアタックでプレーした方がより多くの試合に勝てるかもしれません。もちろん試合は勝ち負けがあり、当然東京が負けることもあるでしょう。ですが、積極的に攻め続け、最終的に試合に負けても多くのサポーターは満足してくれるでしょう。勝つか負けるかという話をしているのではありません。東京という名を背負っているからには、勝つために攻めなければいけない、その宿命があります。たとえば日本代表が、スペインやドイツと戦うのであれば、守備を固めてカウンターアタックはできると思いますが、勝つか負けるかの話ではなく、自分達のアイデンティティとしてどの方法を選ぶかということです。
引用:アルベル監督×岩本輝雄氏 対談(2023年1月7日) | F.C.TOKYO FANZONE | FC東京 (fctokyo.co.jp)
現代サッカーにおいて強いチームで相手にポゼッションを譲り優勝しているチームは1つもない。マンチェスターシティ、アーセナル、バイエルンミュンヘン、パリサンジェルマン。強者はポゼッションを握るのだ。強者対強者やチーム状況によってはオプションでカウンターをすることはたまにあるが下位の相手にカウンターサッカーをしていても勝ち点は取れない。カウンターサッカーとはいわゆる””弱者の戦術”であり、強者のサッカーはポゼッションサッカーである。
この首都・東京がポゼッションサッカーで相手に勝つ姿は多リーグの強豪の姿を彷彿とさせるのではないだろうか。是非ともこの姿を見たいと思っている。
チーム作り
アルベル監督にとってチーム作りができたということは。
アルベル監督
私にとって真の成功とは、これから4年後、5年後、それ以降も常に東京が上位3チームの座を争い続ける力を持つことです。常にレベルの高い試合をしていれば、時にはタイトルを獲れるでしょうし、常にタイトル争いをする上位3チームに居名を連ね続けるチームに成長することができると思います。その時に私がいないとしても、結果的に私が東京にいた期間が成功であったと言えます。
引用:アルベル監督×岩本輝雄氏 対談(2023年1月7日) | F.C.TOKYO FANZONE | FC東京 (fctokyo.co.jp)
監督にとって、東京が4年後から5年後FC東京が強くなることをが目標であり短期的なものではなく逆に中長期的な目標である。今年2年目のアルベル東京はうまくいかなかったとしても着実に新陳代謝をし、強い東京に進化していっているということである。
今年のFC東京はアウェーで勝ち点を積み重ねられないでいる。しかし、これも強くなるためのさなぎの状態ということなのかもしれない。変革が行われるとき必ずチームというものは一度不安定な状態に陥る。
現・プレミアリーグ2位のアーセナルもウナイ・エメリ監督から現ミケル・アルテタ監督に変更したときだって初めの1年は苦しいシーズンを過ごした。FC東京みたいに6位でフィニッシュなんて贅沢な順位ではなく強豪にして8位。歴史から見るファンからの重圧は考えるまでもないが4年かかりついに羽化。今年は、CL県内確実の2位につけており、つい最近まで優勝争いでも大きくリードしている状況であった。
今のアーセナルは若手が中心に活躍をしており、同じく若手を重宝して起用するアルベル監督。著者は大きく期待している。
また彼は、2022シーズンの総括インタビュー内でアルベル監督は自身のベース(自身の戦術をチーム全体で行うための基盤)作りに関して、質問されたときのこう返している。
Q、ベースに関しては、この1年でしっかり築き上げたと見ていいのでしょうか。
A、私の言うベースとは、我々のスタイルがどのようなものか、選手が理解しているかどうかという部分です。例えば料理では、どのような具材を使い、どう調理すべきかを理解することが重要になる。それがベースです。それに関しては、構築できています。ただ、料理というのは、食材のクオリティが上がれば、料理の出来もグレードアップするものです。サッカーチームも選手の質が良くなれば、表現できるプレーの質も上がってきます。(以下略)
引用:[2022シーズンレビュー] アルベル監督インタビュー | F.C.TOKYO FANZONE | FC東京 (fctokyo.co.jp)
この表現こそリアリストである所以ではないだろうか。
戦術のことを聞かれたとき、その戦術がどれくらい浸透しているか。それは監督の知る部分ではなく、選手ひとりひとりが知っていることである。具材は選手。調理方法はプレースタイルやビルドアップの仕方、守備の仕方のこと。
そして、サッカーはどんなに戦術・マネジメントがよかろうと最終的には選手の質である。そこは決して崩れない。食材(=選手)の質が上がれば料理(=チーム)もよくなる。
また、アルベル監督が目指しているチームが完成するには”2歩進んで1歩下がる”。とてもゆっくりだ。このことを忘れてはいけない。
また、バルサのカンテラから来た監督だけあって若手の育成のことに対してはひと際重きを置いている。
ヤングプレーヤーに対しての考え方
日本全体におけるレベルアップの仕方。
岩本氏
Jリーグやワールドカップなどを見ていると、前線からプレッシャーをかけるチームがあります。ワールドカップでは、日本はスペイン戦、ドイツ戦ではカウンターで、前線からのプレスがはまっていたのに対し、クロアチア戦では三笘選手も伊東選手も抑えられてしまいました。今後、日本がベスト8、ベスト4に入るためには、彼ら選手たちがワンランク上のレベルにいく必要があると森保監督はおっしゃっていました。どう思われますか。
アルベル監督
選手育成は、国全体として改善するべきだと思います。例えばルヴァンカップで23歳以下の選手を5人、6人起用しなければいけないルールがないと、アカデミーから昇格した若手選手にプレーの機会を与えるのは、難しいです。先ほど言ったような、若手選手を起用しなければいけないというルールがない中、若手選手を起用して負けた場合には監督が責任を取らなければなりません(以下略)。
アルベル監督は国全体で若手育成をするべきだと考えているようだ。また、若手選手を起用することに対し躊躇のないルール起用をしないと、日本の若手は育っていかないとしている。
著者自身もそうだと感じている。アルベル監督の出身は冒頭でも語った通り、名門バルセロナの下部組織。そこは、子供ながらに大人と同じ扱いをされ使えなかったら、簡単にクビを言い渡される過酷な場所。しかも、その場所に集まる子供は地域単位ではなく世界単位。いわば地球単位で集まってくる。そこで育った選手と日本で育った選手。違いが出てくるのは当然である。
少しでも近づくためには、若手が起用しやすいルールというのは至極まっとうな解釈であろう。日本は若手を起用し辛過ぎるのである。
この若手の起用がどう光るかはアルベルの手腕1つといったところであろう。世界には若手を使い強豪となっているチームが沢山ある。バルサの10番、日本の最高傑作を生みだした慧眼は今度のFC東京をどのように強豪と仕上げていくのだろうか。
NEXT→戦術編
コメント